「モンクトンにショッピングに行くけど、YUKAも一緒に行かない?」と誘われたのは、プリンス・エドワード島に住んで初めての冬だった。モンクトンとは海を挟んだお隣のニュー・ブランズウィック州にある街である。誘ってくれたのは、ホームステイでお世話になったアニータとローン夫妻、そして、アニータの妹ノーマとそのご主人のビル、会社の上司の奥さんボニーだった。ボニーは、アニータとローンの娘でもある。
それまでに、アニータとローンからは、「モンクトンには、とても大きなショッピング・モールがあって、1日いても周りきれないほどなのよ。」とよく聞かされていた。
今も昔も、プリンス・エドワード島で一番大きなショッピング・モールは「シャーロットタウン・モール」で、シャーロットタウン市郊外にある。1時間も居れば全て見ることができるような小さなモールだが、週末には案外と賑わいをみせる。最初の内は、何もかもが物珍しくてそのモールにも楽しく通っていたが、さすがに、何度も行くと飽きてくる。入居しているお店の商品まで逐一覚えてしまう始末だった。
モンクトンへのショッピングの誘いは、そんな生活にちょっとした刺激を与えてくれる出来事であった。それに、何度も噂に聞いていた大きなショッピング・モールに実際に行くことができるのである。私は、遠足を待つ小学生のように、その日が来るのを楽しみに待った。
そして当日。合計6人の旅となったので、1台の車で行けるようにミニバンを借り、朝早くにシャーロットタウンを発った。運転はローンとビル。冬道も鼻歌交じりで楽々と運転する様は、さすがカナダ人だと思った。
現在、ニュー・ブランズウイック州とプリンス・エドワード島の間には、コンフェデレーション・ブリッジという世界でも有数の長い橋が架かっている。でも当時は、橋はまだ無く、そこをフェリーが就航していた。船は、冬には砕氷船となって、海峡に張り詰めた厚い流氷を「バリバリ」と砕きながら進んだ。夏には、わずか25分で海峡を渡りきるフェリーも、冬だと、厚い氷に阻まれて、時には1時間以上もかかってしまうこともあった。
私は、砕氷船に乗るのも初めてだったので、対岸に渡る間、飽きることなく氷を砕いて進む様子を見守った。でも、そんなに興奮しているのは私ぐらいで、他のカナダ人は、ラウンジでのんびりとテレビを見たり本を読んだりしてくつろいでいる。この北の国では、流氷でさえ珍しくもなんともないのだと、しみじみと感じた。
フェリーを降り、1時間ぐらいでモンクトンに着いた。そのモールの広いこと、広いこと。迷子になりそうなほどだ。島にはないようなお店も数多く入居していて、興味がつきない。夢中になって次から次へと見るうちに、時間は飛ぶように過ぎていった。
ショッピング・モールの規模にも驚いたが、周りでフランス語をしゃべっている人が多いのにも驚いた。方や英語で話していたと思うと、方やフランス語で答えたりと、会話の中に2ヶ国語が混ざることもある。後で調べてみると、ニュー・ブランズウイック州は「英語」「フランス語」の二つの言語を公用語と認めているカナダで唯一の州である。ケベック州と大西洋沿岸州にはさまれている土地柄か、フランス民族と英国系民族がちょうど半々に混ざり合っているのだ。島では、このように頻繁にフランス語を聞くことがないので、なんだかとても遠い所に来てしまった気分だった。
その夜遅くに、買い物疲れと長旅で、ぐったりとしてシャーロットタウンに戻ったのを覚えている。今では、モンクトンへは、橋を渡って2時間で行けるようになった。あれ以来何度も同じモールに出かけたので、最後には随分と詳しくなった。あんなに大きいと思ったモールも、いつの間にか普通のものとなってしまった。トロントに住むようになってからは、更に大きなショッピング・モールに囲まれて暮らすようになり、モンクトンのモールが更に小さなものとなってしまった。
でも、どんなに巨大なショッピング・モールに囲まれて慣れてしまっても、ローンやアニータ達と出かけた、あの最初のモンクトンへの小旅行を忘れることはできない。ただ、ショッピング・モールに行っただけのことだが、それを思い出すたびに、優しい島の友人や数々の初めての体験がセットになって蘇ってくる。
朝早くに出発して、わくわくしながら砕氷船に乗り、フランス語をたくさん聞いた。今でも私のきらきらと光る大切な思い出なのである。
(写真はプリンス・エドワー島州観光局提供)
=今年は「赤毛のアン」出版100周年です!=
******************************
あなたももう一度赤毛のアンを読みませんか?
もし読みたいなと思ったらamazonへ。
当コラム筆者である高橋由香さんとは?
読めるのはどんなコラム?
他にもあるコンテンツを知りたい!
そんな方はウェブ麻布小寅堂へ。
http://www.azabukotorado.com
好評発売中の「エリザベスキューブラーロスの思い出」もよろしくどうぞ。







