ある日、世帯主が私シズカの顔を見て叫んだ。初めての誕生日が過ぎたばかりの去年8月のことだった。それから耳はもちろん、口を開けてのぞいたり、体のあちこちを触ったりして、世帯主は私の身体をくまなく調べだした。とても真剣な顔をしてたっけ。
私はスコティッシュ・フォールドっていう種類。ころんとした体型に、大きくて丸い目、そして子犬みたいに前に折れた耳が特徴なの。チャームポイントの1つである耳は「病気や大きなショックを受けたときに立つ」と、いろんな本に書いてある。世帯主が驚き心配したのは、私の耳がピンとまっすぐに立っていたからだった。
「なんだか最近りりしい顔をしてると思っていたら、耳が立ってたんだわ!」
病院に連れて行くべきかと世帯主は悩んでいたけれど、様子を見てみようと考えたようだった。だって、いつものように相方のヒロノシンとプロレスや鬼ごっこをしていたし、ごはんもちゃんと食べていたから、まあ大丈夫だろうと判断したみたい。
それでもいっこうに立ったままの耳を見ていると気になるらしかった。なにかストレスがあるんじゃないか、毎日の食べ物に悪いものがあるんじゃないか、育て方が悪いんじゃないか……ってね。
世帯主はあちこちの本屋に行っては、目につく猫の本を片っ端から読んだ。でも、やっぱりどれも似たり寄ったりの内容で、耳が立つ原因は病気ぐらいとしか書かれていなかったし、耳が立つことさえ書いていないものも割と多かったんだって。
えっ、私? 私はといえば、どこも具合の悪いところはなかったし、元気そのものだった。じゃあ、耳が立っちゃったのは、なぜかって? それはね、あまりに暑かったんで、少しでも涼しくなるよう、熱を外に出そうと体が自然に反応しちゃったみたい。つまり、放熱のためですね。実はね、耳が立ってるなんて、自分でも気づいていなかった。
長かった夏が終わり、秋らしくなってきたころ、私の耳の先は、少しずつ垂れだした。気にかけていただけのことはあって、世帯主はその変化に敏感だった。冬が近づくにつれて垂れ具合は進み、12月になるころにはすっかり「折れ耳しーかちゃん」が復活。
そのころになって、大阪の実家から「シズカちゃんたちの種類って、暑い季節になると耳が立つってペット屋さんが言ってたけど、どうだった?」と電話がかかってきた。それを聞いた世帯主は絶句した後、「知ってたんなら、なんでもっと早く教えてくれなかったの?」と、怒っていた。
その様子を見ながら私とヒロノシンはちょっとドキドキしてた。だって、うちの世帯主、怒るとこわいんだもの。ほんと、こわいですよー。
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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