むしむしと熱い夜、足下に僕ひろのしんが寝転ぶパソコン部屋で、世帯主は一枚の葉書を何度も何度も読み返してた。差出人は大阪にある実家のお母さん。そこにはこう書いてあった。
「昨日タラが死にました」
タラさんはこの夏、満21歳を迎えようとしていたシャム猫だった。世帯主が高校3年の夏に家族になり、以来、家族の要としてなくてはならない存在だった。社会人になってからは年に数回しか会えなかったけれど、それでもタラさんは世帯主にとって大事な家族であり、親友だった。 私もたった2、3回しか会ったことがないけれど、あの貫禄には勝てないと思ったし、世帯主との友情がいかに深いかもよく理解できた。(写真は元気だった3、4年前のタラさん)
世帯主とほぼ一回り歳が違う弟君が大学受験&浪人した時も、タラさんは毎晩遅くまで弟君に寄り添った。阪神大震災が起きたその時も、センター試験の答え合わせをしていた弟君の膝の上にいた。
世帯主が体を壊して休職したときには、毎日、世帯主が眠りにつくまで枕元に寄り添って見守った。世帯主のお父さんが定年退職後に、お母さんを連れて1泊旅行に出かけるようになると、必ずお父さんの万年床に「大きな用事」をして、一人だけ置いてけぼりになるのを抗議した。
お母さんからの便りによると、今月21日に突然歩けなくなり、物も食べず、お母さんが時々含ませる水だけで3日間過ごしたんだそう。そして最期はいつ呼吸がとまったのか分からないくらい安らかに息を引き取り、全く苦しまずに逝ったのだった。
全盛期は近所のメス猫さんたちのボスだったタラさんの死に顔は、近所の人が届けてくれた蘭や百合の花に囲まれ、本当に穏やかだった。
火葬場から帰ってきたタラさんの骨は真っ白できれいにそろっていた。体にどこも悪いところがなくて、本当の大往生だったことの証拠だった。最後に主治医のお医者さんに見てもらったときにも「とても上手に歳をとりましたね」と言ってもらったんだって。
お母さんからの葉書はこう結ばれていた。
「だから悲しまないで、タラのすばらしく生きた一生を思い出し、ほめて下さい」
世帯主は何度か鼻をすすっただけで何も言わなかった。でも、その気持ちは僕にもよく分かる。そして僕も世帯主と同じことを考えてた。
タラさん、さようなら。これまでありがとう。寂しいけれど、どうか安らかに。
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
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