「しーちゃん大丈夫?」。受話器を通して、私シズカの耳に世帯主の声が聞こえてきた。電話が苦手な私は黙ってたけど、そうなの、ほんと、地球のあっちとこっちで、わが家はみんな大変だったのよね。
その日、ラテンアメリカのある街で、とうとう世帯主は「地猫」さんと対面した。取材を手伝ってくれたイノウエ一家が見つけてくれたそうで、猫さんはある事務所の椅子で、香箱スタイルでくつろいでいた=写真=。
身ぶり手ぶりで周囲の許しをもらい、世帯主は嬉々として猫さんをだっこした。ヒョイと抱くつもりが、「お、重い……」。並大抵の重さじゃなかったの。
ヒロノシン(5キロ)や私とノドカ(ともに3.2キロ)なんて目じゃない。大阪の実家にいるシャム猫タラさんの全盛期くらいの手応えがあったんだそう。で、つい言っちゃった。「あんた7.5キロはあるでしょう、横綱級ね」
その途端、猫さんは世帯主にビシッと一発、猫パンチをお見舞いした。床におりるとムッとした様子で奥へ歩いていっちゃった。後で聞いたら、4歳の雌だったそう。やっぱりどこの国でも、いくつになっても、レディーにとって体重は微妙な話題なのよね。
「わっ、わっ、わっ!」
同じころ、わが家では、シッターさんが叫んでいた。稼ぎから帰り、手を洗おうと洗面所にいくと、誰かが床にげろよんしてた。お風呂場の前のマットの上には黒いものがコロン。ウンチだった。
ため息をつきながら片づけて、パソコン部屋に行くと絨毯の上にまたまたコロン、コロン、コロン。空気を入れ替えるべく窓を開けようとしたら、出窓のところにもコロン。ソファに座って気を落ち着けようとリビングに行ったら、そこにもコロン、コロン……。
うちのシッターさん、いったん眠るとなかなか起きなくて困るんだけど、覚醒時はまめで親切なの。仕事で疲れてたのに怒りもせずに手際よく片づけてくれた。
その時、帰宅時から続いていた低い音の正体が分かったの。隅でしっぽを巨大猫じゃらしにしたノドカのうなり声だった。ヒロノシンも様子が変で、歩いても音がしない。なんと首輪も鈴も消えている。鈴はベランダのカーテンの裏、首輪はソファの上で見つかった。
ふたりが遭遇すると、ノドカのうなり声は大きくなるし、ヒロノシンはビクビクした感じになる。気になって私がそばにいくと、ヒロノシンは嫌がって逃げ、ノドカはフーッと怒る。私とシッターさんはどうしたらいいのか困ってしまった。
シッターさんは考えた。ノドカとヒロノシンがじゃれて遊ぶうち、調子にのりすぎて本気のけんかになっちゃったんだろう、びびったヒロノシンがウンチをまき散らしながら逃げたんだろうって。
嬉しそうにそのノー天気な推理を話すシッターさんの声を聞きながら、世帯主はまたまた私たちのことが心配になっちゃったのだった=右写真はコラム掲載時の頃の私たち。
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以上は2002年2月7日にウェブ掲載されたコラム。このとき、世帯主(麻布小寅堂店主)は中米グアテマラに約2週間も出稼ぎに行っていたのだった。
当時、3.2キロだった私とノドカは本日2007年2月24日現在4.15キロ。よく食べよく眠る私たち姉妹は今も成長し続けているのでした。対するひろのしんは5キロだったのが今は4.75キロ。胃腸があまり強くなくて時々げろよんしちゃうのと、私たちと一緒にダイエットさせられているので、ひろのしんはスマートな体型をキープ。
え、世帯主は? それは言えません。だって養ってもらえなくと困っちゃうから。あしからず。
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
★ほかにも充実したラインナップのコラムをどうぞ!
是非是非、ウェブ麻布小寅堂へ。
http://www.azabukotorado.com
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