「やっぱり……」。世帯主は心の中でつぶやいた。「やっぱりノンちゃん、野性児だったのね」。1カ月ほど前、動物病院の診察室でのことだ。
「やってくれましたね」。若先生がそう言いながら、ノドカのお尻をふいた。辺りはプゥ〜ンとにおってた。「肛門のわきから出た分泌液のにおいなんですよ。スカンクが敵から身を守るときと同じ。猫は彼らほど強烈じゃないですけどね」
避妊手術の前の検診で、ノドカはパニックを起こしたんだ。慣れない病院で緊張しまくってるところに、お尻に体温計を入れられたんだから、当然かもね。ありったけの力で助手さんと世帯主の手を振りきったときに、プゥ〜ン……。
僕ヒロノシンは、ノドカが家にやってきたときから思ってた。「彼女は普通じゃない」って。世帯主とシズカも気づいてるはずだ。だって、彼女のじゃじゃ馬ぶりはただごとじゃないからね。
カーテンでターザンごっこはする、よじ上ったりパンチしたりして障子に穴を開ける、家の中を全力疾走して、勢いそのままで突進してくる……。世帯主なんて、歩いてる足にタックルされて何度も転んでる。
頭がいいから余計に始末が悪い。ブリッ子するのも上手なんだ。甘えるふりして近づいてきて、毛づくろいしてやってたら、突然、ガブリとやってくれる。
手術してパワー倍増したノドカ、家具から家具まで、2.5メートルほどなら軽く跳んじゃう。薬でもやってるんじゃないの?って思うほどだ。世帯主も言ってるよ。「病院で何か変なもの、お腹に埋め込まれてきたんじゃないの?」
耳の先端にある長めのふさ、しましまのしっぽ、僕とシズカにはない特徴をノドカは持ってる。ワイルドキャットの証明だって聞いてはいたけど、世帯主は「ノンちゃんは大丈夫」と、はじめタカをくくってたんだ。
なぜなら、赤ちゃんのころのノドカは、おっとりした性格だったから。きょうだい達がおもちゃで遊んでいても、後ろから見てるような赤ちゃんだったんだって。
それで僕とシズカと仲良くできると確信したらしいんだ。でも、三つ子の魂百までっていうよね。ってことは、ノドカは生まれたときから知能犯の野性児で、初対面の世帯主の前でネコかぶってたんだよね。
僕もシズカも、病院は大の苦手だけど、スカンクみたいな「おなら」は、さすがにしないもんね。
今じゃ、わが家で一番落ち着く時間は、ノドカがエネルギーを充電してるときなんだよね。危険分散のため、離れてることが多い僕とシズカは、ノドカの熟睡を確認すると、こっそり歩み寄って寄り添い、つかの間の休息を味わう。
夜だとそこに世帯主も加わり、「眠ってる姿は本当に可愛いいんだけどねぇ……」って言いながら、ため息をつく毎日なんだ。やれやれ。
************
<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★ほかにも充実したラインナップのコラムをどうぞ!
是非是非、ウェブ麻布小寅堂へ。
http://www.azabukotorado.com
感想ご意見は[email protected]へ。