春なのに私シズカは悲しい気持ち。「おっとりしーちゃん」な私は争いごとが大嫌い。なのに、なのに……。
「どうしたの!?」。世帯主が血相を変えて駆けつけたのは、家中にものすごいうなり声が響いたからだった。文字ではとても表現できないような、地獄の底から響いてくるような「音」で、世帯主もはじめは声だと分からなかったぐらいなのよね。
声の主はノドカだった。短い折れ耳を後ろに向け、頭と腰を低く戦闘態勢になり、背中の頭のてっぺんから尻尾の付け根まで、背中の毛はピンと逆立ってた。巨大猫じゃらしを通り越して風船のように膨らんだモノトーン縞のしっぽ……。
憎しみの色に染まった瞳がキッとにらみつけていたのは私だった。
私たちは追いかけっこをして遊ぶのが大好き。ところが最近、遊んでいる最中にノドカが急に怒り出すようになってしまったの。標的はいつも私。あちこち走り回ってる途中に隠れ、出合い頭の衝突っぽく飛び出してよく遊んでたんだけど、どうもそれが気に入らないらしいのよね。
ここ数日は1日1回のペースで私は猛烈に怒られている。地球を征服にきた怪獣を倒さんばかりの勢いで、私はまるで悪者怪獣「シースカ」扱い。
じゃじゃ馬で天真爛漫なノドカは実はとても気が小さいの。いたずらを軽く注意されただけでパニックするし、本気で怒られた時にはフリーズしちゃう。おてんばなのにノミの心臓ときてるから、世帯主もノドカのしつけには苦労してた。
私のことを怒るのも小心さから。きっかけと思われる事件が起こったのは10日ほど前のことだった。その日ノドカは生まれて初めてげろよんしちゃったのよね。
珍しく仕事の帰りが一緒になった世帯主とシッターさんが玄関を上がると、パソコン部屋の入口に吐きたてホヤホヤのげろよんが。最初はヒロノシンが疑われたんだけど、さすが世帯主、奥の方でケフケフ言ってるノドカがやったんだってすぐに分かったのよね。
背中をさすってやろうとしても嫌がるし、いつげろよんしてもいいように古い新聞を手に世帯主は少し離れて見ていたの。ところがいっこうに収まる気配がない。あんまりケフケフ続けているので、世帯主と一緒にいた私も心配になった。
それで背中をなめてやろうと、そっと近づいたら……。「△×◎☆!」。ノドカはとってもビックリしたらしかった。シュパパパパパーッと、それこそ声とは思えない音を発しながら、周りにげろよんをまき散らしながら、リビングの方へ一目散に駆けだした。
後始末が大変だったのは言うまでもないんだけれど、以来、ノドカは怒りっぽくなってしまったの。頂点に達している時の様子はまるで「怪獣ノドゴン」。おっとりヒロノシンはすっかりびびってしまい、いつも私の後ろで腰を落として固まってます。
その様子を見ながら、世帯主とシッターさんは1月終わりの「ウンコまき散らし事件」の犯人はきっと……に違いない、と考えているの。さて、真犯人は……?
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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