世帯主の驚く声が聞こえてきた。僕ヒロノシンは見なくても分かる。シズカが今日も世帯主のかばんに入り込んで昼寝してたんだ。最近のシズカのお気に入りの場所なんだよね。
財布に手帳、携帯電話、デジカメ、移動中に読む本、目薬やリップクリームの入った化粧ポーチ、メガネケース……。世帯主は休日に出かけるときも荷物が多い。外出先でも買い物をして荷物が増えるから、持ち歩くかばんも自然と大きめになる。
で、たくさん入って丈夫でおしゃれで、と選んだのがイタリア製の革かばん。一応名のあるメーカーのものなんだけど、会社の刻印が入らない格安品をネットで見つけて去年の夏に手に入れた。で、愛用してるんだけど、一番使いこなしているのは実はシズカなんだ。
しっかりした作りで型くずれしにくく、底のマチが広くとられているから中は広々、でも入り口が狭いから外界の雑事に煩わされることがない。なにより出入りするときに大きなお尻がつかえないことが大きなポイントらしい。
シズカはくつろぎの場所に家庭用シュレッダーを愛用してた。ところが成長とともに窓から入るのがつらくなっちゃったんだよね。で、ようやく代わりの場所が見つかったってわけ。
件のかばんはよく活躍してるから、いつも仕事部屋の隅に置いてある。世帯主はある時から持ち歩くたびに思ようになってたんだ。このかばん、こんなに丸っこい形だったかな?って。
ある夜、仕事から帰ってみると、かばんのふたの部分がいびつに開いていた。不審に思って近づくと、「んるる!」とかばんが声を上げた。じゃなくて、中で寝ていたシズカが、見つかっちゃった!って感じで叫んだんだよね。
「かばんのこの丸み、しーちゃんのお腹のだったのね!」
以来、世帯主はシズカに入られまいと、ふたをしっかり閉めておくようになった。だけど、初志貫徹がモットーのシズカは必ずこじ開け、中に入り込む。うまく行かないと悔しいのか、中途半端にふたが開いた状態で、とんでもない所にかばんが転がされている。
いくら格安とはいえ、数万はした代物だし、愛着もあるから大事にしたい。で、妥協策として、世帯主はシズカと共用で使うことにした。出かけないときはきれいにふたを開け、シズカが入りやすいようにして置いておく。世帯主がお出かけで使うときには抵抗せずに速やかに明け渡す。
で、かばんはますます丸みを帯びてきてるんだけど、最近はシズカと一緒にノドカまで入ろうとしてるから、また一悶着ありそうな気配なんだよね、やれやれ。
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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