「あの茶トラ君はどうしてるかなぁ」。一日一回、世帯主は私シズカに話しかける。
世帯主がその茶トラ猫さんに会ったのは、週末の夕方、商店街のはずれを歩いていた時だった。
うおうぉん、うぉん、おんっ! うわわぁん、わぁん、わぁん〜! うぉん、うぉん、うぉおお〜ん! 突然、大音響で響いてきたものすごい叫び声に、世帯主は足を止めた。
はじめは犬が虐待されているのかと思ったんだけれど、よくよくよく聞くと猫らしい。とにかく聞いたこともないすごい声で、気になった世帯主は用事そっちのけで辺りを捜索し始めた。
世帯主が路地に入る足音が響くと、その声はしなくなる。でも、ちょっと離れるとまた始まる。なかなか見つけられないので諦めて歩き出そうとしたら、すぐ近くからまた叫び声が聞こえてきた。
そっと振り返ると、ビルの裏にたまった落ち葉の上で、丸々と太ったでっかい茶トラ猫がしゃがんでいた。力んでは叫び、またしゃがみ直して叫んでは力む。それを繰り返してた。虐待されてたんじゃなくて、とっても大きな用を足してたのよね。
長い時間をかけて、ようやく出し切り、茶トラさんはほっと安堵の表情になった。落ち葉をかき集めて「今日の成果」を隠し始めた時に、物陰からじっと見ていた世帯主と目が合った。驚いた茶トラさん、一瞬硬直した後、隠すのもそこそこに逃げていったんだって。
その様子をみながら、世帯主は25年前に読んだ、狐狸庵先生こと故遠藤周作氏の随筆を思い出していた。公衆便所で、隣の人が壁をたたき、叫び声を上げながら用を足していた。便秘は大変なんだと同情してたら、楚々とした着物美人が出てきたって話よ。
それで、茶トラさんは便秘なのだと世帯主は確信してるの。
大島弓子さんの最新作漫画「グーグーだって猫である」には、ウンチハイの話が出てくる。大島さんちの猫グーグーちゃんは、ウンチの前後に興奮状態になるんだそう。
動物学者の説では、猫は巣から離れた場所にフンをするので、道中どんな敵に遭遇しても突き進めるように自分をハイにするんだとか。
とすると、茶トラさんは便秘じゃなくて、ウンチハイだったのかも知れないって私は思う。「俺ってグレートだぜ!」「敵でもなんでもかかってこい!」なーんて思いながら叫んでたのかもね。
どっちにしても、トイレは一大事。私もヒロノシンもトイレの時は真剣な表情だもの。それは人間も同じでしょ?
だから願わくは、トイレの様子で健康状態が分かるからって、じっとわきから見ないで欲しいの。みなさん、そう思いません?
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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