「あ〜幸せ〜」。私シズカを抱きしめ、世帯主がつぶやいた。さらに顔を近づけ「しーちゃん、お日様のにおいがする〜」。あんまり嬉しそうにしてるから、私はそのままだっこされてたの。
久しぶりに休みだった土曜日の朝、世帯主は私たちと寝坊をきめこんだ。天気がいいのでカーテンを開け、ひなたぼっこしながらだらりんこん。それで私たちの体はホカホカに暖まっていた。
ボーナスのおかげでベッドも広くなったから、ノドカと私が横にのびきっても、ヒロノシンが大の字になっても大丈夫。そして世帯主の疲れを吹き飛ばしたのは、お日様のにおいだったのよね。
私たち猫はお日様のにおいがする。例えるなら、天日でよく干したお布団のにおい。世帯主はあれが大好きで、ふかふかになった布団で寝たり、私たちを抱きしめたりするだけで、ハッピー!になれるらしいの。
世帯主は子どものころから動物が大好きだった。シマリスを飼ったり、手乗り文鳥を何羽も育てたり、捨てられた犬や猫を拾ってきたり……。親とはぐれたドブネズミの子どもや、けがして弱ったコウモリを救出したこともたびたびあった。
幼少のころはポチさんという雑種犬と暮らしてた。初代も二代目も大阪・豊中警察署から来たんだけれど、性格がとってもよかったの。やんちゃな世帯主が背中に乗っても、しっぽを引っ張っても、鼻をつまんでも絶対に怒らなかった。
世帯主がピンチに陥るとすぐに駆けつけ助けてくれた。世帯主の動物好きを決定づけたのは、実は犬さんたちだったの。
縁側に干した布団の上で、ポチさんたちとプロレスごっこをした後に、抱き合って昼寝をするのが世帯主の一番の楽しみだった。それでお日様のにおい→幸せな気分、という図式ができたわけ。
世帯主との暮らしが最も長いヒロノシンは、そのことを理解してる。だから世帯主に元気がないと、めいっぱい太陽の光を浴びて世帯主の膝にのる。世帯主はぎゅっと抱きしめ、ヒロノシンのうなじに顔をうずめるの。
太陽の日をいっぱいに浴びた体はほんわかポカポカ。お日様のにおいと相乗効果で、心のエネルギーを温かく満タンにするにはベストなの。
不況、リストラ、倒産……、せかせかした世間は暗いニュースのオンパレード。暖かふかふかの布団で、のんびり私たちと昼寝する時間を作るだけでも、少しは穏やかで平和な気持ちになれるんじゃないかと私は思う。
ただパートナー選びには要注意。ノドカみたいな野性児をパートナーにしちゃうと、顔やお腹に勢いよく着地されちゃって、幸せな思いに払う代償が大きかったりするものね。
来年はどうか良い年になりますように……。
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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