その音が聞こえてきたのは、真冬の明け方だった。大きな音だ。なんだろう、気味が悪い。そう思っていたら、また聞こえてきた。
バリンッ!ガリガリ!
体中の毛が逆立った。金属音がこすれるような音が家の中から聞こえてくる。ガサゴソ音も聞こえる。だれかが家の中にいる! 一緒に寝ていた世帯主もびっくりして飛び起きた。恐怖のあまりに顔がゆがんでる。
オートロックで防犯はバッチリのマンションだって言ってたけど、やっぱり2階だと侵入しやすいのかな。世帯主の身に何かあったら、僕とシズカはどうなるんだろう……。
そこにもっと異様な音が聞こえてきた。
ゴォ〜リ、ゴォ〜リ、ゴォ〜リ、ゴォ〜リ……。
ノコギリで金属板を切っているような大きな音だ。世帯主は決心した。枕元の子機電話を手にとり、寝室を出た。「ここにいなさい」。そう言われたけど、心配で僕は一緒についていった。音のする風呂場に近づき、世帯主は電気のスイッチを押した。
明るくなった風呂場にはだれもいなかった。排水溝のふたがこじ開けられて転がっていた。音はそのその奥から聞こえる。見ると、生後半年のシズカがユニットバスの浴槽の下を探検中だった。異様な音は浴槽の底とシズカの首輪の金具がこすれる音だったんだね。
シズカは未熟児だったのか、とてもチビだった。長めの毛がふさふさしているし、顔が大きく手足が短いのでそうは見えないけど、成人(猫)した今でもチビのまま。歯も永久歯とは思えないほど小さいし、体重は3キロを超えたことがない。
でも、体の大きさに反して力持ち。プロレスをやっても倍ぐらいある僕と互角に戦う。そのうえ好奇心旺盛で何事もやり遂げないと気が済まない性格だ。毎日あちこちに入り込んだり、いろんなものを移動させたり、思いもつかないことをやって世帯主と僕を驚かせる。
僕だったら、排水溝のふたを開けるなんて、面倒くさくてできないよ。
朝、起きると枕元に頭が円盤状の長い棒が落ちていることが何度かあった。洗面台の排水孔の栓だ。それもシズカの仕業だった(右)。
夜中にスコーン、スコココココーン、と音がする。のぞいてみたら、彼女が洗面台の栓のところに手を入れ、手首のスナップをきかせて栓を上に飛ばしていた。勢いが弱いと元の位置に戻ってしまう。でも、根気よく続けてタイミングがあうと、栓は高く飛んで洗面所の外に落ちる。それを転がしたりくわえたりして、世帯主の所まで運んでたんだ。
なぜそんなことをするのか、教えてくれないから分からない。僕も興味ないしね。
最近のお気に入りは家庭用シュレッダー(一番上の写真)。姿が見えないと思うと、中にもぐり込んで細切れになった紙の上で寝ころんでいる(下)。寂しい時にはネズミのおもちゃが一緒だよ。
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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http://www.azabukotorado.com
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