私シズカの顔をのぞき込んで世帯主が言う。私はありがとうの軽いキスをして、そのまま世帯主の膝の上で丸くなって目を閉じる。
実のことをいうと、私はだっこされるのがあまり好きじゃない。その代わり、自分から甘えに行くのはとっても大好き。机でパソコンに向かっていたり、ソファでごろんと本を読んでたりする世帯主を見ると、膝や胸の上にのぼっちゃう。
頭や体をなでてもらいながら、喉をゴロゴロならすのは、本当にいい気持ち。不思議なのは、行動はいつも同じパターンのはずなのに、私がただ甘えたいだけなのか、眠くてそのまま寝ちゃいたいのか、世帯主はお見通しだってこと。
手にじゃれつく振りをしても、だめ。「しーちゃん、おねむなんでしょ、無理しないで眠ったら?」って言われちゃう。ヒロノシンが喉を鳴らしながら、世帯主の布団に潜り込もうとする時もそう。遊びに来たのか、一緒に寝たいのか、バレバレなの。
なんと、秘密は「ほんわか耳」にあったのね。眠たくなると、耳の温度が普段より高くなって、ほんわかと温かくなるらしい。そういえば、私が甘えに行くと、いつも耳をそっと触ってたっけ。
このほんわか耳の法則、ヒロノシンと一緒に暮らし始めたころ、実家のお母さんに教えてもらったんだって。人間の赤ちゃんも同じで、眠りにつくと、もとの温度に戻っちゃう。だから、眠いのかな?っていう時に触らないと分からないみたい。
はじめは半信半疑だった世帯主、ヒロノシンと私の耳はもちろん、いろんな猫さんたちで試してみた。実家にいるおばさん猫タラさんとジュリさん、お友達の家のクッキーさん、お正月に訪ねた奈良・新薬師寺の巨大黒猫さん……。
タイミングが悪くて襲いかかられたり、強烈猫パンチをくらったりと、それなりの苦労もしたらしい。その甲斐あって、猫の場合、赤ちゃんでもおとなでもほんわか耳の法則が当てはまるという世帯主なりの結論を導いたのだった。
きっと犬や人間の大人も同じだろうと世帯主はにらんでるの。でもね、下手をすると犬さんたちには吠えられるか、かまれるかしそうだし、地下鉄で眠そうにしてる見知らぬおじさんの耳を触るわけにもいかないし……。
自分の耳で確かめようにも、眠くなりかけた時には、ほんわか耳のことなんて忘れちゃってる。世帯主の法則は未完のままで終わりそう。
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以上は2001年8月にウェブリリースされた私しずかのコラム。
以来、私達も成長し続け、先週のひろのしんのアーカイブコラムでは「3キロを超えたことがない」と書かれた私も実は現在、約4キロ。妹のどかは4.2キロ。私達に比べると体格がいいけどスマートなひろのしんは4.7キロしかないのに…やせなくちゃ。
さて、「ほんわか耳の法則」はやっぱり人間にもあてはまるみたい。というのは、3歳3カ月のうちの末っ子「トラちゃん」は人間なんだけど、眠たくなると手や足、耳、体の先端部分があったかくなるからなの。トラちゃんは頭まで熱くなる。だから世帯主たちはトラちゃんが眠くなってきていることを「頭が発火してる」って言ってる。
それから、上のコラムを書いた頃には元気だった世帯主の実家のシャム猫タラさんと雑種猫ジュリさんは、老衰のため亡くなりました。タラさんが一昨年の夏19歳で。ジュリさんが去年10月に17歳(?推定)で。考えてみれば私たちもなかなかいいお年。ひろのしんと私は夏にそれぞれ9歳、8歳になるし、のどかも2月に6歳。人間の年に換算してみると、52歳、48歳、42歳。とうとうみんなそろって世帯主の年齢を追い越してしまったのでした。
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
★ほかにも充実したラインナップのコラムをどうぞ!
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