「あー、気持ちよかった」。世帯主がお風呂から出てくると、僕ヒロノシンはつい目をそらしちゃう。「明日は一緒に入る?」なんて言われると困るからね。
世帯主はどんなに疲れていても毎日必ずお風呂に入る。もちろん気持ちいいからなんだけど、少しでも寝つきを良くしようという苦肉の策でもあるんだ。世帯主は疲れようがお酒を飲もうが、バタンキューができないほど寝つきが悪いんだよね。
お風呂タイムを楽しくする努力も惜しまない。その日の気分で選べるよう入浴剤を各種そろえてるし、せっけん類やタオルなんかも、見た目のきれいさやかわいさを大切にしてる。
ところが、そうしたグッズのなかで、1つだけほとんど使ってないものがある。猫用シャンプー。「私のよりずっと高いのに」と、たまに世帯主はこぼしてるけど仕方ないよ。僕はお風呂が嫌いなんだもの。
僕と暮らし始めた頃、世帯主には夢があった。一緒にお風呂に入ることだ。もうあきらめたみたいだけど、どうも世帯主、猫は風呂が好きだと信じてたらしい。これまでに何度か登場したシャム猫ネルさん、世帯主が高校時代に同棲してたハンサムボーイが、大の風呂好きだったんだよね。
入浴する世帯主と一緒に、毎日風呂場まで入ってくるので、試しに世帯主がネルさんを抱いて湯船に入れてみた。すると、嫌がるどころか喜んじゃって、目を細めてうっとりしてた。
体を洗ってもらうのも嫌がらないし、それで世帯主とネルさんは、よく一緒にお風呂に入るようになった。世帯主が忙しい時は、お父さんが代役を務めた。ネルさん、犬かきで湯船を泳ぐのも好きだったらしい。
あまりの気持ちよさに、湯船で粗相をしちゃうこともあった。あるとき、お湯の表面に何かが浮かんできたので、よくみたらネルさんのウンチだった。ビックリした世帯主、でも、ネルさんは悪びれるどころか、恍惚の表情を浮かべてたんで、怒れなかったんだって。
気持ちよくてウンチしちゃうなんて、人間の赤ちゃんみたいだけど、それくらいネルさんはお風呂が好きだったって証拠だよね。
しまいには、誰かがお風呂に入ると、一緒に入れろと、風呂場の前で鳴くようになった。アンギラスのような声で叫んで要求するんだけど、猫の毎日の入浴は体によくない。人間のように汗もかかず汚れない。必要な体の油分まで取れちゃうといけないしね。
それから家族みんなは、一緒に入る時以外は、こっそりと入浴するようになった。苦労もあったわけなんだけど、気持ちよさそうにお湯に使っている猫の姿って、味があるらしい。風呂場前で寝転がり、出てくるのを待っているノドカに、世帯主はちょっと期待してるんだよね。やれやれ。(2001年6月21日)
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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