僕ヒロノシンは、出かけていく世帯主を送り出しながら、いつもちょっと心配になる。変質者と間違われないでよね、そう心の中でつぶやく。あんまり大きい声じゃ言えないけど、世帯主には困った癖があるからなんだよ。
僕も時々困るんだ。歩いている後ろから、お尻を見るんだもの。そう、タマタマの観察をするんだよね。僕は子どものころに去勢手術を受けたから、小さな形跡しか残ってないけど、でも、やっぱり恥ずかしい。
世帯主は猫を見ると必ず、しっぽの付け根の部分をチェックする。特にオスだったりすると、じぃ〜っと見ちゃう。で、「あんたもちゃんと2つあるのね」なんて言ってる。これが人間だったら大変なことでしょ? でもね、別にスケベ心からじゃないんだ。
これまで何度か登場したシャム猫ネルさん、世帯主が高校時代に可愛がってたハンサムボーイだけど、実は彼にはタマが1つしかなかったんだ。チビだったころには分からなかったけど、成長するにつれて、家族みんなが「ん?」と、思うようになってたらしい。
初めての家猫で、いつ手術すればいいのか分かららず、去勢されないままだった。体が大きくなるとともに、当然、オスのシンボルも立派になってくる。
シャム猫は耳や鼻の周り、手足やしっぽと、先端部分が黒いよね。で、ネルさんのタマタマも、ビロードのような濃い茶色の毛皮で覆われていた。小学校1年か2年だった世帯主の弟が宿題で描いたネルさんの絵(写真)にもしっかり登場してる。
ところが、片方はぷっくりときれいなボール状に膨らんでいるのに、もう1つの方はぺたんこ。ある日、家族みんなで意を決して触ってみたら、中身がないということが分かったんだ。
世帯主のお父さんと弟は男同士ってことで何となく不憫に思っていたようだし、元気だからいいかと思っていた世帯主とお母さんも「これでいいんだろうか」とひそかに気にしてた。
ある日、帰宅した世帯主にお母さんが言った。「あったのよ、もう1つ!」。なんと、ネルさんを仰向けにしたら、おへそと右後ろ足の付け根の中間あたりに、ぽっこりとしこりみたいなものがあった。それがもう1個のタマだったんだ。
お医者さんに聞いたり本を読みあさったお母さんの話では、タマタマはもともとお腹の内部でできて、成長とともにお尻の方に下りてくる。でも、たまに途中でとどまっちゃうことがあるんだって。困ることもなさそうだし、ネルさんのおかま疑惑も解けて、みんなは一安心した。
そして、それからは来客があると、ネルさんはお尻とお腹を披露する羽目になったんだって。
そんな平和な日々が、世帯主には懐かしいらしい。その気持ちも分かるけど、こっそりやってよね、ったく。
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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