「ごろ〜ん、ごぉ〜ろぉ〜ん」。世帯主のかけ声にあわせて床に転がり、体をよじる。「の〜び〜、のぉ〜びぃ〜」。仰向けになって、両手を上にピンのばす。僕ヒロノシンの至福の時だ。おなかをなでなでされたりしたら、気持ち良すぎて足まで伸びちゃうよ。
「ごろんのび体操」とでも言えばいいかな。世帯主と2人暮らしだったときには、よくやっていた。仕事から帰った世帯主を出迎えた時のあいさつ代わりにもなっていた。風呂上がりの柔軟体操のメニューにもなってたんだよね。
その後シズカがやってきて、今じゃノドカもいるから、なかなか思いっきりできなくなった。甘えん坊のシズカは「何してるの?」って寄ってきて、僕と世帯主の間に割ってはいる。遊びたい盛りのノドカはじゃれついてくるし、うかうか寝転がってられない。
僕は考えた。いつなら思う存分やれるかなー。で、姉妹の昼寝どきや夕飯の直後が狙い目だって気づいたんだ。
シズカとノドカはご飯を食べるのがのんびりだから、僕が食べ終わるときにはまだお皿に向かってる。で、さっさと食後の顔洗いを済ませて、ふたりの様子を確認する。まだ食べてる。よし、今だ。
世帯主の前に行き、腰を落とし気味の格好で振り返る。気づいた世帯主と目が合う。世帯主はうなずき、「あれね」とつぶやく。これで商談成立。僕たちは無言で絨毯を敷いた広めの部屋に向かう。で、始めるんだ。「ごろ〜ん……」
聞きつけた姉妹が駆けつけた時には、もう佳境に入っている。のばしきった手の先からつま先まで約1メートル。ノドカが飛びかかろうとしても、ひらりとかわしちゃう。身も心もリフレッシュした直後だから、体の動きもスムーズだ。
最近じゃ、シズカもまねしてやり始めた。でも、マスターにはほど遠い。ラッコ寝と同じでちゃんと作法があって難しいんだよ。
「ごろん」はただ寝転がるんじゃない。回転レシーブのようななめらかな動きで斜めに転がるのがベスト。「のび」は、まっすぐ頭上に手をのばす。シズカはドテッと転がっちゃうし、手足が短いので「のぉ〜びぃ〜」のところが、「のびっ」くらいにしかならないんだよね。でも、懸命にやってるからよしとするか。
ごろんのび体操、いろんな場面に応用がきく。たとえばお客さんがきたとき。熱烈歓迎の気持ちを表現できるし、芸の1つと見なして喜んでくれる人もいる。
世帯主のご機嫌対策にも有効だ。落ち込んだり機嫌の悪そうな時には、世帯主の前で、僕ひとりでごろんとのびを繰り返す。何度もやってるうちに、世帯主は吹き出して元気になるし、シズカやノドカも加わり、みんなで遊べるしね。
のび姿は寝苦しい夜にも効き目があるのか、最近、明け方に目覚めると、隣で世帯主が僕と同じのび姿で眠ってる。え、こんな姿で寝てるの?って複雑な気持ちになるんだけど、そのことは世帯主には内証だよ。
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このコラムは2001年8月16日「21Cの猫」にリリースされたコラムのアーカイブです。
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<今日の筆者>いとう・ひろのしん(下の黒猫)
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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