最近、わが家のベランダにはなぜだかハトがよくやってくる。ヘッッピリ腰でそーっと見ているひろのしんの後ろから、「コラッ!!」と世帯主が声を上げて追い返す。動物好きな世帯主も、ベランダにやってくるハトさんにはなかなか厳しい。昔、ひろのしんと2人匹(ふたりっぴき)暮らしだった時、ベランダにハトさん夫婦が住みつきかけて大変な思いをしたからだった。
「最近はハトばっかりだねぇ。そういえば、前はカラスがよく来てたよね」。世帯主が私しずかに話しかける。というわけで、もう何年も前のことを私たちはしみじみと思い出していたのだった。
以下は2001年11月5日リリースのコラムです。
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「ア、ア、ア、ア、ア、ア、アァ〜」
「カ、カ、カ、カ、カ、カ、カァ〜」
「アッ、アッ、アァ〜」
私シズカの声に世帯主がベランダ前に駆けつける。そこには黒光りしたでっかいカラス。週末に時々やってきてはプランターの土をほじくり返して遊ぶのよね。蚊やハエみたいな虫には強い私も、カラスはちょっと無理。せめて威嚇しようと奇声を上げるんだけど、相手にされない。
何度もやられて怒り心頭の世帯主、仁王立ちでオーバーアクション気味にカーテンをめくって叫ぶ。「こらっ!!」。驚いたカラスは向かいのビルへ避難する。
「びびってないで手伝ってよ」。振り向いた世帯主が話しかけるのは私じゃない。後ろで腰を落とし、首だけ伸ばして様子をうかがうヒロノシンになの。実はヒロノシン、気が小さいのよね。テレビで見る鳥ならカラスでも何でもOK。だけど実生活では腰が引けてしまうらしいの。
カラスは戻ってきていたずらを再開する。で、世帯主と私はまた追い返す。そのうちノドカも加わり、隣で一緒にキュルキュルと叫ぶんだけど、ノー天気な彼女は遊んでると思ってるのよね。ヒロノシンはやっぱり後ろからのぞいてるだけ。
このカラス、世帯主が出かけるのを待ってることもある。そのときはマンションの内廊下。世帯主の姿を見ると花壇の土をほじくり返し始める。で、世帯主が知らん顔して行こうとすると、エレベーターのそばまでピョンピョンと跳んで追いかけてくるのよね。
そのうち私と世帯主は思うようになった。もしかして、あのカラス、いたずらが楽しいんじゃなくて、私たちと一緒に遊びたいんじゃないの?って。
学生時代、世帯主はある女子学生寮に住んでいた。井伊直弼の別荘地だったという日本庭園風の敷地はとても広かった。門から寮の玄関まで、100メートル以上の小道が続き、桜並木やいろんな樹木のなかを歩いていくのは気持ちよかったんだって。
番犬として飼ってた3、4匹の柴犬のほかに、野良のデブ猫さんが住み着いていた。このデブ猫さんには少し変わったパートナーがいたのよね。カラスだった。
デブ猫さんの姿を見つけると、どこからともなくやってきて、デブ猫さんの後をピョンピョン、トコトコついて歩く。デブ猫さんもうっとうしいらしくて、時々振り向いて怒ってた。
カラスにはとても通れないような生け垣の小さなトンネルを歩いたり、芝生の上に寝転び昼寝のふりして無視したり、デブ猫さんもいろいろやったけどだめだった。カラスは根気よくついていく。そのうちデブ猫さんも観念して、仲良く散歩するようになった。寮でも有名な「カップル」だったそう。
うちにやってくるカラスも、世帯主の海外出張中は姿を見せなかったのに、帰ってきたとたん現れた。ってことは、やっぱり世帯主のことが好きなのでは……。私はそうにらんでるんだけど、皆さんはどう思います?
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<今日の筆者>いとう・しずか
スコティッシュ・フォールド種。1999年大阪豊中市生まれ。しし座。得意技はラッコ寝と、後ろ足投げだしほふく前進。近所の動物病院では「スコティーのシズカちゃん」として人気。2歳年下の妹ノドカと、ヒロノシンという黒い雑種の雄ネコと同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
いとう・ひろのしん
雑種。1998年夏、大阪箕面市生まれ。かに座(推定)。きれい好きで、お人(猫)好し。忍耐強さと面倒見の良さには定評あり。得意技は洗濯機もぐり。しずか&のどかという血縁関係のないスコティッシュ・フォールド種の姉妹猫と同棲。飼い主は麻布小寅堂店主。
★このコラムは某ウェブサイトで2000年1月〜01年9月まで続いた連載コラム「21C(世紀)の猫」のアーカイブです。現在の家族模様を織り込みながら、キャッ!といってしまいそうな楽しい話題をお届けします。
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